──「強すぎる景気」が変えた金利シナリオ
ビットコインはここ数日、長期的な市場構造の改善を背景に上昇し、一時8万7,300ドル付近まで回復した。しかし、日本の連休明けとなった24日朝、流れは一変し、8万4,000ドル近辺まで急速に押し戻された。今回の下落は、「これまでの強気材料がすべて崩れた」というより、米国の景気が予想以上に強かったことで、追加利上げへの警戒が一気に強まったことが大きい。前日発表された米国の9月速報PMIが、その引き金の一つとなった。
なぜ、景気が良いのにビットコインは下がったのか
PMIとは、企業の購買担当者へのアンケートから景気の勢いを測る指標で、50を上回れば経済活動の拡大を示す。
今回の数字はかなり強かった。S&P Globalの9月速報値では、総合PMIが8月の56.0から58.4へ上昇し、2021年7月以来の高水準となった。製造業PMIは57.0、サービス業PMIも58.7となり、いずれも市場予想を大きく上回った。さらに雇用の伸びも4年以上で最も強く、企業の投入コストは約4年ぶりの速さで上昇している。つまり、「景気は強い。しかしインフレ圧力も強い」という内容だった。
通常なら景気の強さは好材料である。しかし現在は少し事情が違う。
FRBは先週、すでに利上げを実施している。そこへ今回のPMIが加わったことで、市場では「景気がこれだけ強ければ、FRBはさらに利上げできるのではないか」という見方が急速に強まった。
実際、米10年国債利回りは5.1%を超えて2007年以来の高水準まで上昇。2年債利回りも上昇し、市場が織り込む10月の追加利上げ確率は、前日の約50%から70%台まで上昇した。ドルも上昇し、米株にも売りが広がった。ビットコインも8万6,000ドル近辺から8万4,000ドル近辺まで下落した。
つまり今回は、典型的な「Good News is Bad News」である。
景気が強い
→ インフレが下がりにくい
→ FRBが追加利上げできる
→ 米金利が上がる
→ ドルが強くなる
→ 株式やビットコインなどのリスク資産から資金が離れやすくなる。
この流れが短時間で市場に織り込まれた。
では、ビットコインの上昇要因は崩れたのか
私はこれまで、長期の市場構造が強気方向へ変わり始めている一方、短期の過熱には注意が必要と繰り返してきた。
その考え方自体は、今回の下落だけで否定されたとは見ていない。
CryptoQuantの9月22日の分析では、BTCは約8万500ドルの365日移動平均線を上回った。また、市場内部の複数指標を組み合わせたBull Scoreも強気領域まで改善していた。
さらに重要なのが需要である。長期保有者による大規模な売却が続いてきたにもかかわらず、BTCはその供給を吸収しながら8万6,000ドル台まで回復した。米国の現物BTC ETFにも9月17日から22日の4営業日で約23億ドルの純流入があり、機関投資家を含む現物需要の回復が上昇を支えていた。
実際、23日時点でもBTCの8万ドル突破について、ETFや機関需要が上昇を支えているとの分析が出ていた。一方で、出来高や市場の広がり、デリバティブの状態から、短期的な調整リスクを指摘する見方も同時に存在していた。
だからこそ私は、長期の強気構造と短期の急落リスクは同時に存在すると考えている。
今回起きたことは、その典型例だ。
「上がったから買う」が最も危険になる局面
行動ファイナンスの観点では、8万ドルを突破し8万7,000ドルまで上昇すると、「このまま乗り遅れるのではないか」というFOMOが生まれやすい。
しかし価格が急上昇すると、先物市場でもレバレッジを使ったポジションが積み上がる。
その状態で米金利が急上昇すると、まず利益確定が出る。価格が下がればレバレッジポジションの清算が発生し、その売りが次の売りを呼ぶ。
つまり、長期的に市場環境が改善していても、短期では簡単に数%の調整が起こる。
ここは分けて考える必要がある。
これから注意したいのは「PMIの数字」より金利
今回のPMIはすでに発表された数字である。
ここから重要なのは、市場がその数字をどのように消化するかだ。
特に確認したいのは、米10年債利回りが5%台で定着するのか、追加利上げ観測がさらに強まるのか、そしてETFへの資金流入が下落局面でも継続するのかである。
365日移動平均線付近を維持できるのかも重要になる。
ここを維持しながら現物需要が続くのであれば、今回の動きは強い上昇の途中で起きた調整と評価できる可能性がある。
一方、金利上昇とともにETFフローまで反転し、現物買いも弱くなれば、評価を変える必要がある。
さらに「政治」がボラティリティを高める
もう一つ、今後はマクロ指標だけを見ていればよい市場ではない。
米国では11月の中間選挙を控え、経済政策や財政政策を巡る不確実性が高まりやすい時期に入っている。加えて、米中首脳会談では貿易や先端技術などが議題となり、中東情勢も原油価格を通じてインフレと金利に影響を与え続けている。
23日の米国市場でも、原油価格の上昇と国債利回り上昇が同時に進み、株式市場を圧迫した。
ビットコインは今、暗号資産市場だけを見て判断できる資産ではなくなっている。
オンチェーン、ETF、先物だけでなく、米金利、原油、ドル、そして政治・地政学までを見る必要がある。
今回の急落で最も重要なのは、「上昇が終わった」と判断することでも、「絶好の押し目」と決めつけることでもない。
長期構造の改善が、金利上昇という新しい逆風に耐えられるのか。
連休明けの急落は、その最初のテストだと私は見ている。
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荒澤 文寛(あらさわ ふみひろ)
ビットトレード リサーチアナリスト
https://www.bittrade.co.jp
行動科学・行動ファイナンス(投資家心理)を専門とするアナリスト。暗号資産・デジタルアセット市場を中心に、投資家心理、センチメント循環、行動バイアス、オンチェーンデータを軸とした市場分析を行う。エックスウィンリサーチ(XWIN Research)シニアアナリスト。あわせてエックスウィングループ代表。Crypto Quantの認定アナリストでもある。また、ブロックチェーン推進協会 DeFi部会長として、国内におけるDeFi・ステーブルコイン・Web3領域の制度整備や普及促進にも関与している。
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